放言録

放言・妄言・狂言

衛視と議院警察権

議院警察権

 国会においては、行政からの独立という観点により、国会法(昭和22年法律第79号)第114条の定めにより、議長が議院内部の警察権を有する(議院警察権)とされ、議長の命により議院警察権を行使する国会職員(参事)たる衛視を置く旨、議院事務局法(昭和22年法律第83号)に規定されている。

 議院警察権は、議院内部に限られているが(衆議院規則第208条、参議院規則第217条)、この場合の「内部」とは、議事堂の囲障内と解され(参議院先例録453)、議員会館憲政記念館等、議事堂の囲障外に設置された施設に議長の議院警察権は及ばない。ただし、議員会館の内部には衛視が属する警務部が分室を設置し、民間の警備員、警察官とともに警備にあたる*1*2

 議事堂の内部では、衛視が警察権を行使するが、外部においては、議長の求めに応じて派出された警察官が警備を行うことになる。警察官は、主として警部以下の機動隊員がおよそ100人程度派出される。派出警察官は、通常議事堂内での警察権行使を許されないが、議長の判断により議事堂内の警察を行うために内部に立ち入ることがある*3*4。ただし、衆参両院において、警察官が携行する警棒および拳銃は取り外させている。

衛視

採用と待遇

 先述の通り、衛視は、国会職員としての地位を持ち、議院内部の警察を行う。その採用は、両院ともに一般の国会職員とは別に高卒者を対象に行われ、議院警察職としての給料表が適用される。階級は議院事務局法の規定により衛視長、衛視副長、衛視に分かれるが、衛視副長と衛視の間に衛視班長の職位が置かれている。

職務

 衛視は、議院事務局法においては、「上司の指揮監督を受け警務に従事し」(第8条2項)とされている。この場合の「警務」とは、「議院内部の警察」、すなわち、議院警察権の行使のことを指し、議事堂敷地内の警備を主たる職務とするが、議事堂内における各議院議長、副議長の警護(議事堂外においては、警視庁が担当する)、参観者に対する案内をも業務とする。
院内において秩序を乱したものに対しては、議長の命により警察権を行使するが、各議院は勾留施設を持たない(そもそも、衛視は刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)に定める司法警察職員ではない)から、現行犯人に対する逮捕を除いては、議員に対しては降壇等の執行、議員以外のものに対しては、院外への退去をさせ、もしくは、警察官庁にその身柄を引き渡すことになる*5

装備

 従来、衛視は警棒、拳銃ともに装備しておらず、衛視の実力で対処できない事態に対しては、議長の命により警察官が議事堂内に立ち入り、警察権を行使するものとされ、それを前提とした訓練も実施されていた*6が、昨今のテロの脅威増大に伴い、平成28年には衆議院議院運営委員会院内の警察及び秩序に関する小委員会は衛視が警棒を装備する旨決定し*7、議事堂周囲の門に立番する衆参の衛視は警棒と耐刃ベストを装備するに至っている。

 しかし、派出警察官のように拳銃までは携行していないため、従来のように衛視の能力を超えた事態に対しては議長の指揮により警察官が対応することになると思われる。

 

f:id:AmtBlank:20180528113210j:plain

警棒、耐刃ベストを装備し正門を警備する衆議院衛視-平成30年5月、筆者撮影。

f:id:AmtBlank:20180528113351j:plain

同、参議院衛視。

*1:「第189回国会 衆議院 議院運営委員会院内の警察及び秩序に関する小委員会会議録」第1号、平成27年3月19日。

*2:衆議院秘書協議会編『衆議院秘書ノート 2016改訂版』平成28年

*3:衆議院先例集453 警察官をして議事堂内の警察を行わせる。

*4:参議院先例録456 議院に派出された警察官は、原則として議事堂外の警察を行う
議院に派出された警察官は、議長の指揮の下に議事堂内の警察を行う。ただし、議長が特に必要と認め議事堂内の警察を行わせることがある。(後略)

*5:参議院先例録457 院内において秩序を乱した者を院外に退去させ又は警察官庁に引き渡した例
議員以外の者が議員内部において秩序を乱したときは、議長は、これを院外に退去させ、必要な場合は警察官庁に引き渡すことがある。(後略)

*6:日本経済新聞「国会で初めてテロ訓練 警視庁など」平成27年7月5日。

*7:「第190回国会 衆議院 議院運営委員会院内の警察及び秩序に関する小委員会会議録」第1号、平成28年3月22日。